おやすみ王子第4夜のネタバレ!宮下奈都「椿」

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こんにちは!第4夜は宮下奈都さんの「椿」です。
クリスマス前に振られる女性のお話しなのですが、すこしずつ、
最後にじんわりするお話しになっているのではないでしょうか。

第四夜  椿  宮下奈都

もう会えない、といわれたときは息が止まるかと思った。
どうして。どうして。
もうすぐクリスマスなのに、ふたりで過ごすのを楽しみにしていたのに、どうしてよりによって今なの。
泣きたかったけれど、たぶん、今だから、クリスマスだからこそ、もう会えないのだ。
ようやく悟ったら、ふいに田舎のおじいちゃんの顔が浮かんだ。
自分でもびっくりした。

おじいちゃんは、穏やかで、無口な人だった。
しかたがないよ、と笑うのが口癖だった。
そうか、しかたがなかったのか、と思う。
――ううん、思えない。
あのときああしていれば、こんなふうにいっていれば、と後悔が波のように打ち寄せてくる。
それであの人の気持ちが取り戻せるわけではない、と私にももうわかっているのに。

おじいちゃんは、父も母も働きに出てしまうわが家で、赤ん坊の頃から私を見ていてくれた。
三食ともおじいちゃんと食べたし、おじいちゃんとテレビを見たし、本も読んでもらったし、ゲームもした。
おじいちゃんに育てられたようなものだ。
でも、おじいちゃん、ゲームはへただったなぁ。
ふふ、と笑ってから、あ、私、久しぶりに笑った、と思った。

おじいちゃんは働き者で、いつも手を動かしていた。
畑仕事もしたし、家の中のこともほとんど全部おじいちゃんだった。
そうだ、よく裏山の椿の手入れもしていた。
昔、集落がもっとにぎやかで、人もたくさん住んでいた頃、その辺りにも家が何軒かあったらしい。
でも、私の物心がついた頃には、もう誰も住んでいなかった。
長く放置されていた空き家が取り壊されたのは小学校に上がった頃だったか。
すぐに空地は草に覆われて、やがてここに家があったなんてわからないくらいになった。
椿だけは残った。
誰も見ない椿は、裏山の斜面にひっそりと花を開かせた。
太陽の日差しを浴びて、葉を生い茂らせて。
おじいちゃんはその椿を大事にした。
冬の、ちょうど今頃の季節になると、赤い花を咲かせる。華やかなのに、清楚で、美しかった。

でも、私は、花と同じくらい、葉のつやつやした緑がきれいだと思った。
おじいちゃんにそういうと、うれしそうに笑って頭をなでてくれた。
山に育つ椿は自由に伸びるようでいて、陰になる枝や葉は日が当たらず病気になりやすいのだと、だからよく見てやらないといけないと訥々と話してくれた。

家を出て三年目に、仕事に行き詰まって、行き場がなくて、ふらっと実家に帰ったとき、おじいちゃんは何もいわなかった。
しかたがないよ、ともいわなかった。
ほっとするようで、物足りないようで、居心地が悪かった。
しかたがないと私自身が思いたくなかったのだろう。
しかたがないことはない、もう少しやれるのだと、あのときの私は思いたかった。

仕事ばかりか、恋も思うようにいかなくて、それがしかたのないことなのか、そうではないのか、今の私にはわからない。
おじいちゃんならわかるだろうか。
わかったとしても、どうすることもできない。
おじいちゃん、と小さな声で呼んでみる。
胸が詰まった。
私がつまずいても、おじいちゃんにはどうしてくれることもできない。
しかたがないよと静かに笑うか、へたくそなゲームに興じるふりをして私の気持ちを紛らわせるか。

考えていたら泣きそうになった。
どうしてだろう。
自分を一番大事に思ってくれている人のことを、同じ形じゃなくても、同じ分量じゃなくても、いつも思い出せたらいいのに。

椿の剪定をしているおじいちゃんの姿が瞼に浮かぶ。
一枚ずつ、丁寧に葉を取り、枝を刈った。いつかあのやわらかい花が、そっと開くように。

やっぱり、帰ろう。今年のクリスマスはお休みだから、おじいちゃんの顔を見に帰ろう。
そうして、しかたがないよ、と笑ってもらおう。

 

まとめ

誰も見ない椿をおじいちゃんは手入れをする。
病気になりやすいからよく見てやらないといけないという。
実家に帰省した時、おじいちゃんは仕方がないよと言ってはくれなかった。
たまたまその日の気分で言わなかっただけかもしれないけれど、もしかしたらおじいちゃんはよく見ていて、あえて言わなかったのかもしれないですね。
ただ受け止めてくれていたんでしょうか。

こんなおじいちゃんも素敵ですね。帰省したら癒されそうです。。

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